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ATLIA STAFF BLOG
AIS15:授業レポートvol.1 「線」って、なに?
当館がコーディネイトをつとめる学校×アーティスト×美術施設の取り組み「アーティスト・イン・スクール」。
第一線で活躍するアーティストが図工・美術の授業で先生(講師)をつとめる派遣プログラムです。年に1校1学年を対象に開催してきた本事業、開館以来15回目を迎えました!
約1か月半ほどのあいだに何回かの授業を行い、ともに作品を制作・鑑賞することで、様々な交流や学びを生み出すことを目的にしています。
さらに、授業で出来た作品はアーティストの作品とともに当館で展示し、みなさまにも楽しんでいただける展覧会として公開!芸術の秋にもりだくさんの内容です。

今年は講師に安部典子さんをむかえ、川口市立並木小学校の6年生96人(3クラス)と一緒に活動します。
「線でみつける」をテーマに、10月のはじめ、授業初日をむかえました。
本ブログではスタッフ目線で授業をレポート。普段はなかなか見えない学校内での活動の様子をちらっとお届けいたします!
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図工室で初対面の安部さんと児童たち、どちらもちょっと固い様子…スタッフが「緊張してる人ー?」と聞くと、何人も手があがるクラスも!(素直な児童たちでむしろ安心するスタッフなのでした)
互いに慣れないことなので、どきどきしながら、まずは安部さん、自己紹介として、これまでに手がけてきた作品・活動を写真で紹介します。




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画面に作品(の部分アップ)が写し出されると、小さく声が上がります。
「何に見える?」と安部さんが投げかけると、「雲?」「滝みたい」「海がバーって開くやつ!」と様々な意見が。ちょっとうれしくてニヤニヤする安部さん、さらに「何でできていると思う?」と質問を続けました。木を彫った、紙をいっぱい重ねた、と、これにもいくつかの意見が出ます。
安部さんは、これは紙でつくっているんだと説明しました。確かに紙をいっぱい重ねたものですが、1枚ずつフリーハンドで切ってから重ねていくと言います。これは1000枚ほどの紙を使用してつくっているもの。
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「じゃあ、どれくらいの大きさだと思う?」画面からは掴みづらい作品の大きさを想像してみる児童たち、それぞれの予想サイズを手で表します。
だいたい両手で抱えられるぐらいかな?小さかったらA4とか?大きいとしたら1mくらい?
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そこで安部さん、同じシリーズの作品の実物をおもむろにカバンのなかから取り出します。え、あるの?と身を乗り出す児童たち。
両手に乗るくらいのサイズの、意外に小さなそれ。児童全員に見えるように近くまで運んで鑑賞してもらいました。
小さな声で、細かーい、すげー、と思わず口にしながら、食い入るようにみつめる様子も。滝や雲などスケールの大きな自然物を思わせる作品は、写真から想像するサイズとはちょっとギャップがあるようです。

自然に溶け込むような作品がつくりたいと思っていた安部さんは、風景を描くだけではそこに近づけないような気がして、抽象的な「線」のみを描く・切ることをはじめたと言います。
その制作にならって、今回の授業では、線を描く・切ること(ドローイング)から、何かそれぞれの個性をみつける作品をつくろうと、安部さんは提案しました。
今日ははじめての授業なので、そもそも「線」がどんなものなのか、それを引く感覚をつかむための練習をすると言います。
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児童たちに配られたワークシートには、「『線』をさがそう!」と書いてありました。まずは肩慣らし、身の周りにある線を書き出してみます。
えんぴつ、まつ毛、先生(安部さん)のネクタイ…などなど、けっこうおもしろい答えがあるな?児童たちの視点では、意外なところにも線が見えるようです。
更にまつ毛と同じように、自分の身体にある線を探していきます。髪・しわ・手相・輪郭などはもちろん、血管・骨・気管など、目に見えないものも挙がってきました。
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自分のなかにある目にみえないものや感情が重要と言った安部さん、目を閉じて想像してみようと促します。
過去や未来にはどんな自分がいるかな…今の自分にどんな話をしてくれるかな…と、物語のように話しかけました。
自分の時間へ思いをはせる児童たち。頭に浮かぶ言葉をメモしたり、少し絵を描くような様子も見られました。
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目を閉じての想像から、今度は耳をふさいでみます。ぐっと耳を抑えると、自分の心臓の音や呼吸、何かが流れるような音が聞こえ始めました。
自分のなかから聞こえる音はどんな線になるのか…実際に手を動かしてみましょうと、安部さんはノートを配ります。
見開きのページに鉛筆をつかい、児童たちの手元はぎざぎざ・ぐるぐる・さっさと動いていきました。
すばやく行ったり来たりする児童もいれば、ゆっくりと強い線を引く児童も。しかし、まだ少し遠慮がちに周りをきょろきょろしている児童もいるよう。こんな感じでいいのかな?
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続いて安部さん、ノートの新しいページに2つの点を打つように言いました。1つの点から線をひきはじめ、1分ずーっと線をひき、もう1つの点でゴールしてみようと指示します。「用意はいいですか?手を止めちゃダメよ…3、2、1、スタート!」とストップウオッチを押しました。
まるでゲームみたい?児童たちは自由に線を引いていきます。しかしやってみると、1分は意外と長いな!途中で手が止まる児童もいます。
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さらに、次は3分の線にも挑戦。4つの点を打ち、時間内ですべての点を通過すると同時に、今度は線を交差させちゃダメというルールも追加されました。
安部さんのスタート!で鉛筆をすばやく動かせた児童たちも、見開きのノートの広さを見ながら、ちょっと慎重になります。3分か…もっと長いよ、ページが埋まってきちゃった…線はくねくね…やばい、あと1分もあるの?…どうしようクロスしちゃいそう…静かな葛藤。はい終わりー、と声がかかると、息をついた児童たちの「あぁー」が教室いっぱいに広がりました。
遠慮や緊張をしていた児童たちも、ゲームのような線の練習で、気持ちやからだが少しはほぐれたでしょうか。
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安部さんは「これは1分・3分の、それぞれの人生の線だからね」と言いました。
他のクラスメイトのノートを見ると、「線」に強弱があったり、ぎざぎざ・くねくねが混じったり。同じルールと時間でも、引く人によってまったく違うものが生まれたことがよくわかります。

安部さんの作品の鑑賞から鉛筆とノートの練習で、なんとなーく「線」の感覚がつかめたでしょうか?
安部さん、次の授業では作品のつくり方のもうひとつ「線を切る」に挑戦してみようと言いました。
ここで初回の授業は終了。まだはじまったばかりの制作ですが、これからどんな作品が生まれるか、楽しみです!



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photo: Kozo Kaneda
※作品アップ写真のみ、アーティストより提供 photo: Masaya Yoshikawa

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第15回アーティスト・イン・スクール
安部典子(美術家)×川口市立並木小学校6年生96人 〈線でみつける〉
授業期間:2021年10月~11月 全5回(予定)

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by atlia | 2021-10-17 10:26 | 学校×アトリア