アートさんぽ[匠と行く!野外彫刻ウォッチング]を開催しました!
6月10日(土)、アートさんぽ[匠と行く!野外彫刻ウォッチング]を開催しました。講師は長谷川善一さん(長谷川鋳工所社長、彫刻家)と寺島政人さん(彫刻メンテンナンス)。彫刻の制作・修復に携わる2人の「川口の匠」に案内いただき、駅前の「川口西公園」に立ち並ぶ彫刻を見て歩きました。
出発前に講師のお2人が写真スライドを用いて自己紹介。長谷川さんは美術家の河口龍夫氏から依頼された鋳造の仕事(※詳しくは当blog過去記事
「時間の位置の物語(1)―〈河口龍夫―時間の位置〉のはじまりとは」をご覧ください)や市内各所に設置した自身の作品について語り、寺島さんは腐食や変色が進んでしまった彫刻の修復作業、川口西公園で毎年行っている彫刻の清掃作業について紹介しました。
講師の精力的な仕事ぶりとアートへの深い理解が示されたところで公園に出発。今年一番の暑さだとニュースで報じられていましたが、生い茂る緑が日差しを和らげ、さわやかな風も吹き渡ります。長谷川さんが彫刻家の視点から園内の作品1つ1つのコンセプトや作者について解説し、設置後のメンテナンスについて寺島さんが語りました。
ブロンズへの塗装を最も得意とする寺島さん。自身が携わった作品が園内に数点あり、その色のつけ方を詳しく解説しました。ブロンズ像によく見られる青色は銅の表面に出る錆(緑青)によるものですが薬品で生じさせる場合もあるそう。一方同じブロンズでも黒いものは鉄錆を水に溶かしてつくった「おはぐろ」という塗料によるもの。バーナーで炙りながら彫刻の肌に塗り重ねる作業を幾日も繰り返すそうで、作品の見た目からは想像のつかない技術と労力に、参加者たちから感嘆の声がもれました。
ブロンズ像が多く立ち並ぶ園内で異彩を放つのは《WAVING FIGURE》。鏡面加工を施したステンレスの輝きが目をひきますが空や周りの建物を映し出すことで風景と調和しています。作者の建畠覚造氏は川口ゆかりの彫刻家であり、日本全国に点在する作品の有機的かつ精緻なフォルムは市内の会社が持つ高度な金属加工技術によって実現されています。波打つステンレス板をぴったり貼り合わせることや、長年の野外設置に耐える構造体をつくることの難しさについて長谷川さんが解説し、指さす先に参加者たちは目を凝らしました。
更に関心を集めたのは《裸のリン》の作者、佐藤忠良氏についてのエピソード。日本を代表する彫刻家である一方大学の先生でもあり、実は長谷川さんも教え子の1人だったそうです。話し上手で笑わせてくれたことや人体の捉え方についての興味深い話をたくさん聞かせてもらったことなどの思い出が語られ、師弟の間柄ならではの臨場感あるお話に参加者たちは聞き入りました。
そしてさんぽの終盤、長谷川さん自身の作品である《くろがね号のゆくえⅡ》を鑑賞しました。素材は川口のまちを象徴する鉄の鋳物。ブロンズ等と比べてつくるのが難しく、経年劣化が予想されても敢えて鉄鋳物の大作に挑みたかったそうで、今にも飛び立ちそうな姿に未来へと進む意思が感じられます。
実はつい数日前、寺島さんの手で修復されたばかり。腐食による傷を丁寧にならし全体の色を塗り直すばかりでなく、鉄錆に似せた細かな着色を施して作品に染みついた長い時間をも再現しています。作品のつくり手(長谷川さん)と相談しながら守り手(寺島さん)の判断を加え、新たな命を吹き込んでいく過程が語られました。
アート作品は作者の手でつくられるものと思いがちですが、実際には多くの人が手を携え、様々な技術と想いを繋ぐことで世の中に成り立たせることができます。身近なアートを講師の解説とともに振り返った今回、普段は何気なく通り過ぎていた場所の価値と、心豊かな暮らしに向けて川口のまちが果たしている役割を再発見できたのではないでしょうか。