展覧会〈アートな年賀状展2017〉関連イベントとして、日本の文化に親しんでいただくことを目的に開催しました本講座。建具や日本家屋の素晴らしさを広める活動に携わる小清水謙太さん・クルシノ沙貴子さんを講師に迎え、釘を使わずに木材を組み上げる「組子」の技法を使ったコースターづくりを行いました。
小清水さんは「『組子』と聞いて、すぐイメージできる方は少なくなってきている」と語り、組子の歴史や特徴についてレクチャーをしてくださいました。組子は、元々は建具職人が自らの腕を自慢するために技巧的装飾を施すようになったのが始まりで、昔ながらの日本家屋が減少するとともに現在は姿を消しつつあるそうです。また、組子と聞くと木を削る技術にばかり目が行きがちですが、本当に必要なのは、反り・割れなど1本1本異なる木の癖を事前に見極め選別する『木を見る力』だとも。
コースターのつくり方は、クルシノさんが実演しながら教えてくださいました。まずは最も基礎的な、木材に溝を付ける技法から。2本の木材に同じ大きさの溝を付け、それを十字形になるようにはめ込めば完成。手順自体はシンプルなのですが…。
「本来は、極細の線が引ける専用の道具を使います。鉛筆の線は太すぎて誤差の原因になるので。」
「ノコギリのアサリ(互い違いになっている刃)の分だけ大きく削れてしまうので、刃の一番外側が線に来るように注意してください。」
「ほんの少しだけ、ほんの気持ちだけ、内側に溝が入るようにノコギリを入れると良いです。」
クルシノさんはさくさくと手を進めながら、思いのほか難しそうなコツを、何でもないことのようにさらりと口にします。全て、1mmよりもずっとずっと小さい単位での話です。参加者の顔に不安の色が浮かびますが、笑顔で続けます。
「大丈夫です。手を動かすうちに、何となく掴めてきますから。」
とにもかくにも、手を動かして挑戦です!
まずは練習用の木材を使って肩慣らし。重要なのは、全ての作業を慎重に、正確に行うこと。ほんの僅かなズレが後々の仕上がりに大きく響きます。
まずはスコヤ(直角を出すための定規)をまっすぐに当て、カッターの角度がブレないように注意しながら木材に線を引いて…。
先ほど引いた線に合わせてノコギリを入れます。割り箸ほどの太さしかない木材に、髪の毛の先ほどの細い線。しかもノコギリの厚み分も考慮しつつ、刃の角度は垂直(気持ち内側)に…。気にすべきポイントがたくさんありすぎて肩に力が入ってしまい、うまく刃が入らない方も。それでもどうにか、切れ込みを入れることができました。
あとは切れ込みにノミを差し込めば、自然とコの字形にえぐれて溝が付きます。さっそく出来た2本の木材を組み合わせてみるのですが…溝が小さすぎてはめることができなかったり、逆に大きすぎて隙間があったり、十字のはずがX字に組み上がったりと、全員大苦戦。
しかしながら、失敗を経験することで「次はこの部分に気をつけよう」というポイントもそれぞれに見つけることができ、次第に肩の力が抜けていった様子。ノコギリを引く姿が様になってきました。
ノコギリの使い方に慣れてきたところで、いよいよコースターづくりに取り掛かりました。2種類の太さの木材をそれぞれピッタリ同じ長さで、4本+22本、狂い無く切り揃えます。そのうちの一部には、先ほど習得したばかりの溝付けも。組み上げてみて不具合があれば、ヤスリで長さを揃えたり、金づちで木材を叩いて潰す「木殺し」という力技によって溝を調整したりと、さらなる技法を駆使します。ミシミシと不安な音を立てながらも、何とか全ての木材が組み上がり、格子状のコースターが完成しました。
参加者の表情を見ると、作り終えた喜びもさることながら、見た目以上に難しかったことへの驚きが大きい様子。実際に手を動かしてみて始めて分かる建具職人の技術力に驚嘆していました。
その後、組子の模様の代表格である「アサノハ」形のコースターの組み立てにも挑戦しました。驚くべきは、皮一枚を残して切れ込みを入れた木材に別の木材を差し込み、まるで3本で支えあっているかのように組み上げる技法。それも、ほんの少し指に力が入っただけで折れてしまいそうな薄い木材が使われています。
格子のコースターづくりの難しさを実感した直後の参加者たち。木材の1片を見るにつけ目を丸くし、どうやって切ったのか、溝を付けたのだろうかとあれこれ分析していました。
全員のコースターを台座に並べての鑑賞会。製作中は手元に夢中でしたが、こうして離れて見てみると、木の個性によって色に違いがあったり年輪が光を反射して艶があるように見えたりと、それぞれに味わい深さがありました。
「思ったよりも難しかったけれども、自分でつくってみて初めて、組子の技術の凄さが分かりました」といったコメントが多く聞かれた今回の講座。
失われつつある伝統技術、そして昔ながらの日本の暮らしに思いを馳せる体験となりました。
本講座が、日常生活の中で見かける障子・欄間などの組子に関心を持つきっかけとなりましたら幸いです。