金継ぎとは割れたり欠けたりした器を漆でつなぎ合わせ、その部分を金で装飾しながら修復する修理法のこと。通常は漆を乾かすのに数日かかりますが、今回はどなたでも気軽に楽しんでいただける「入門編」として新うるし(漆の代用品として使用される塗料)を使って数時間で仕上げる方法を学びました。
講師は川口市内在住の金継ぎ師、吉沢博さん。今回のような簡易的な方法も含め幅広い金継ぎ技法に精通しておられます。
「これは良い器ですねぇ」「きっと金が映えるでしょう」
自慢の器を吉沢さんに褒められ、参加者のやる気は倍増です。
金継ぎは室町時代に始まったと言われていますが、その源流は縄文時代にまで遡るというのだから驚きです。割れた土器を漆で接着し、光沢のある砂粒で装飾したものが縄文遺跡から発掘されているのだとか。これはほとんど金継ぎと同じ考え方です。
そこから現代へと受け継がれる間に開発された修理技法は多種多様。金具で器をホチキスのように留める「かすがい継ぎ」、欠けた部分に別の器の欠片をはめ込む「呼継ぎ」、 まるで一度も割れていないかのように修理する「とも直し」。金継ぎ師は器の用途やデザインなどに合わせてこれらの技法を使い分けるそうです。
さらに埋めた部分の表面をヤスリがけして滑らかにします。ここでの磨き残しは金の発色不良のもと。器を光にかざして何度も確認し、凹凸がある場所には再び接着剤を詰め、徹底的に磨き上げました。
筆に金粉をたっぷりつけ、新うるしの上からサッとなぞるように。数回なぞっただけでもしっかりと紛がくっつきました。
傷の修復にかけた時間に比べると金蒔きはほんの一瞬。でもたったその一瞬で、まるで新しい命が吹き込まれたかのように、器にしっとりとした輝きが宿ったのです。
金を蒔いた器を見た途端、参加者の表情までも明るくなりました。
「壊れてから長い間しまっていたけれど、また使えるようになって嬉しい」
「金継ぎしたことで以前よりもっと素敵になった」
器を手にする参加者の眼差しは一様に優しげ。講座終了後には、器の入った箱をまるでわが子のように大事そうに抱いて帰る姿も見られました。
壊れて使えなくなった器を修復し、新たな魅力をも与える金継ぎ。傷によって価値を増すという考え方は、器が今よりもずっと貴重だった時代の先人たちの「心」から生まれたものに違いありません。
今回の講座は、器を使い続けるための知恵だけでなく、器を大切にする気持ちをも学ぶ機会ともなりました。