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ATLIA STAFF BLOG
[木版画~摺りの深い味わいを学ぶ~]を開催しました
12月12日(土)・19日(土)、たのしい実技講座「木版画~摺りの深い味わいを学ぶ~」を開催しました。
講師は岩佐徹さん。色を摺り重ねたり、水彩のようなぼかしを生かしたり、木版画ならではの優しい味わいをもつ作品を手がけている版画家です。
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版画ができる工程は大きく3つにわけることができます。「原画を考える(描く)」「版木を彫る」「彫った版木で摺る」。江戸時代に大量につくられた浮世絵の制作では工程ごとに絵師、彫師、摺師、と複数の人数で手がけることもあったくらい、それぞれの技法は奥深いのです。
今回はあえて描く・彫るということをせずに、摺師のように摺ることだけで多彩に表現できる版画に挑戦しました。
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しかし、摺るだけで表現、といってもすぐにはぴんとこない様子の参加者。1日目、はじめの挨拶のあと、すぐに岩佐さんが取り出したのは「バレン」でした。これは見たことがあるようなものですが、触ってみてくださいと促されいくつか手に載せてみると、確かにわかるくらい触感が違います。細い紐を何本も編みこんでつくった紐に「こんぺいとう」と呼ばれる編み目をつくりながら強度を出し板状に巻いたものを竹皮の中に仕込んでつくられた、岩佐さん手づくりのバレン。かすかに違う凸凹をつくったり、巻く密度を変えたりすると、バレンの種類は無限になります。つまり「バレンによる摺り跡」で表現が多彩になるのですね。それを強く押しつけるように全面を摺れば「つぶし摺り」となり、紙の地の色が残るように摺れば「ゴマ摺り」と呼ばれるようになります。「ぼかし刷り」は版木にのせる絵具をグラデーションさせることでつくります。
もちろん、摺りとる絵具に水分がどれだけ含まれているかなどでも仕上がりに違いがでる、と岩佐さん。
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話を聞いた後は実際に摺りに挑戦してみることに。教わった摺り方をそれぞれに試していきます。渡されたのは小さなただの板という印象でしたが、それに絵具をのせて和紙に摺りとるたびにバレンへの力のかけ方を変えていくと、表現がはっきりと変わりビックリしている参加者も。一番単純に見えた「つぶし摺り」はかなり力が必要で、思ったより難しい!岩佐さんに絵具の水分量や摺り方のコツを教わりながら試行錯誤を重ねます。1枚の板に向き合うだけで1日目が終了するほど、その多彩な表現には限りがないことが実感できました。
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2日目は試した摺り方を生かして制作を行います。ここで用意されたのはLの形をした版木。これも相変わらず何も彫られていませんが、回転させて何度か摺ることでパズルのような面白い色の重ねが表現できます。版木に記された「見当」と呼ばれる印に紙をあわせれば正方形に。
さっそく1色目、版木に水で溶いた水彩絵具をブラシで十分にのばします。慎重に見当にあわせて湿らせた和紙をぱらりと置くようにやさしく載せ、上からバレンで力を加えていきます。ある人はゴマ摺り、ある人はつぶし刷り。そっと和紙をめくると綺麗なLがでてきました。そこで版木を180度あるいは90度回転させ別の色を版木にのせます。そして摺る、その繰り返し。つぶし摺りとぼかし摺りを同じところに重ねたり、ゴマ摺りでも強くしたり弱くしたり、摺り方を変えず色の組み合わせを変えてみたり、1枚の和紙の上で多様な摺りを行うことで作品に奥行きがでてきました。何度か摺り終えた作品をまじまじと眺め、もう1色重ねようか、ここでやめようか、手を止めるタイミングを考えるのも楽しい悩み。正方形なので紙自体を回転させてどの角度が一番良く見えるのかを考えなおすこともできますよ、という岩佐さんの呼びかけには、はっとした顔の参加者も。こういうところでもそれぞれの表現が広がりました。
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最初は「彫らない版画」にぴんときていない様子だった参加者のみなさんでしたが、この2日間のなかで「摺り」だけで多様な表現ができることを実感してもらえたようです。完成した作品を全員で眺めていると、他の人の作品について、ここは3色重なっているな、このぼかし刷りがいいアクセントだね、と使われた技法を読み解けるようにもなったみたい?
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版木やバレンなどの道具から絵具・和紙などの材料、そして正方形ができたことまでは全く一緒。しかし、摺る人によってまったく異なる表情になった作品はひとつひとつが個性的で味わい深いものとなりました。

ご参加いただいたみなさまありがとうございました!

本実技講座で制作した参加者さんの作品は、〈アートな年賀状展2016〉で展示されます。
温かみのある作品を、ぜひ見に来てくださいね。


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〈アートな年賀状展2016〉
お寄せいただいた手づくりの年賀状を展示します。はがき1枚に様々な気持ちをこめた作品が新年のアトリアを彩ります。みなさまと一緒につくりあげる展覧会をどうぞご高覧ください。

[会  期] 2016年1月8日(金)~1月24日(日)
[開館時間] 10:00~18:00
[休館日]  月曜日 (ただし1月11日(月祝)は開館、12日(火)は休館)
[観覧料]  無料

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by atlia | 2015-12-23 13:00 | 鑑賞講座・実技講座