公式ホームページへ
ATLIA STAFF BLOG
やさしい鑑賞講座[トークセッションPart.1 ともに歩む川口の木型と鋳物]を開催しました
去る10月24日(日)、秋の企画展〈川口の匠vol.5信頼をつなぐ〉に関連して、やさしい鑑賞講座[トークセッションPart.1 ともに歩む川口の木型と鋳物]を開催しました。
出演いただいたのは、本展の出品者である井上芳久さん、鋳物師の永瀬勇さん、そして科学技術ジャーナリストの赤池学さん。木型・鋳物とは何かという基本的なところから世界をリードする技術まで、出演者それぞれの専門分野から解説いただいたのち、これからの展望を話し合っていただきました。

c0222139_7231285.jpg

前半は一人ずつスライドを用いてプレゼンテーションを行います。トップバッターの赤池さんは、ご自身が研究しているユニバーサルデザインの視点から木型・鋳物の重要性を説きました。日本から世界へ広がったヒット商品として、センサー付きの家電やロボットなど日本から世界へ広がったヒット商品を紹介。新しいものをつくるにはパーツの部分から新しい発想を組み込まなければならず、様々な鋳造と木型づくりの技術がそれを形にしていると言います。
c0222139_7233367.jpg

これからのものづくりには人の「感性」に訴える力や「公益性」が求められると赤池さんは考察しています。使いやすさを考えて次の手に渡す木型や鋳物も、他者を思いやる愛情と結びついていると語りました。
c0222139_724641.jpg
 
永瀬さんのお話は、川口の鋳物の歴史とご自身の手掛ける仕事について。東京オリンピックの聖火台が川口でつくられたことはよく知られていますが、技術は大きく発展し、永瀬さんの工場では電子部品やその製造装置を手掛けているそうです。部品自体はアジア諸国でつくられているけれど、基となる製造装置を鋳造できるのは日本だけ。
c0222139_1942088.jpg

精度の高い鋳物をつくるには優れた木型が必要です。高度な条件を満たす木型屋があって初めて他国の追随を許さない鋳造品を生み出すことができると永瀬さんは強調しました。

c0222139_725274.jpg
 
出品者の井上さんは、経営者としての広い知見から日本全国または海外と比較しての川口の木型業の特徴を語りました。減少傾向にあるものの、川口市では百数十軒もの木型屋が操業しています。一方海外は大手メーカーの一部門に組み込まれているところが多いとのこと。川口は関連産業の鋳物や機械加工の工場も含めて世界でも例がないほど集積度が高いそうです。
c0222139_7252191.jpg
 
優れた技術をもつ鋳物屋と連携して、井上さんは自動車メーカーの試作部品を手掛けています。提携先との相談や資材の調達も即時にできる川口の奇跡的ともいえる環境をもっと強みとして意識していく必要があると語りました。


c0222139_17405057.jpg

休憩を挟んでトークは後半へ。三者で川口の木型と鋳物・ものづくりのこれからについて話し合います。永瀬さんからは現場で中核を担う技術者の採用難が問題点として挙げられました。コンピュータを多用するようになっても重要な判断を行うのは人であり、ものづくりへのこだわりや勘を持つ人間が品質を決めると言います。 
その論に井上さんも共感を示しました。若手社員全員に手仕事の基本的な技能を身につけさせていますが、目標となる国家試験の廃止や就労時間の減少などが懸念されると言います。市内の仲間と連携し、異なる業種や役所など様々な人を巻き込みながら創意工夫することが今後ますます大事だと次の世代へのエールを送りました。  
二人の話を受けて赤池さんは、コンピュータや機械では再現できないものづくりの本質について語りました。人に備わる多様な経験から創造力が生まれるのであり、テクノロジー以上に製品が生み出されるまでのプロセスやつくり手の人間的なエピソードを発信していくことが大切であると締め括りました。


今回の講座を通じて、日本のものづくりにおける川口の街と、技術とともに受け継がれた感性の重要さが改めて浮き彫りになりました。休憩時間と閉幕後には出演者に熱心に質問し、歓談する参加者の姿が見られました。現代の暮らしの中では見えにくくなっている地場産業を見直し、「キューポラのある街」以来の固定したイメージを新たにする機会となったのではないでしょうか。
by atlia | 2015-10-29 07:29 | 鑑賞講座・実技講座