講師は版画家の高松久子さん。木口木版の制作を中心に活動し、木口木版と紙版画を融合した表現も試みています。今回は木口木版に挑戦。10cmにも満たない小さな版木の中に世界を表現していきます。
まず高松さんから木口木版についてのお話を伺います。木口木版は西洋で発展した版画技法で、細密な表現が可能であり、版木自体が硬くて丈夫であることから、書物の挿絵として使用されてきた歴史があります。板目木版とは材料の板の切り出し方が異なり、木を輪切りにした版木を使用します。「バームクーヘンのような状態です」という高松さんからの説明に、参加者も合点がいった様子。説明の後、高松さんの作品を鑑賞します。
ため息が出るほど繊細で、物語の世界を垣間見るような作品に参加者はびっくり。モノクロの世界につい見惚れてしまいます。次に高松さんが版木の表面を磨く作業を見学。木とは思えないほどつるっと滑らかな感触に参加者も驚きの表情。
版木は虫食いや節などひとつひとつ異なったかたちを持っています。表現したいものに合わせて版木を選んだり、版木から表現したいものを決めたりします。みなさんはどのような版木で、どのようなものを表現するのでしょうか。
制作はまず表現する題材を決め、下絵を描くことからはじまります。それぞれ写真や図鑑を参考にしながら下絵を描いていきます。版木が小さくて、細かいところまで表現できるので、下絵も悩みます。「下絵の段階でしっかり描きこむことが大事」と高松さんのアドバイスを受け、参加者はより細かく下絵を制作します。
下絵を版木に転写したら、いよいよ彫りの作業に。今回は彫刻刀の中でもビュランという変わった道具を使います。版木がとても硬いため、彫りだすということが難しい木口木版。版木にビュランやニードルなどとがった道具で傷をつけるように表現していきます。ビュランの扱いになかなか慣れない参加者たち。高松さんが適宜アドバイスをしていきます。
掘り進んだら試し刷り。インクを版木に乗せて紙に写し取ります。版木が小さいためバレンの代わりにスプーンの背を利用してくるくると擦っていきます。非常に細かい彫り跡は目で確認するのは難しいため、試し刷りで進行状況を確認。どう彫れば刷った際にどんな線になるのかを参加者は実感した様子。ここで1日目の制作は終了。来週は制作を続けて完成させていきます。木口木版は特殊な道具は不要で、スプーンなど身の回りの道具で制作出来ます。尖ったもので版木を刺すことで点が表現できるので、参加者は版木を持ち帰り、目打ちなど思い思いの道具を使い、家で制作を続けました。
2日目は、家で制作をした人を中心に試し刷りし、中間講評を実施しました。参加者の制作も順調なのか、1日目の最後の試し刷りの時より彫った部分が明確に表現できています。高松さんも完成に向けて細かい部分をアドバイス。それを元に参加者は制作を開始します。完成に向けて彫り、刷りを行います。
ひとりひとり作業の進度が異なるため、高松さんは会場を回り様子を見ていきます。どこを彫り進めればよいか悩む参加者に対して、高松さんは声をかけます。「版画は一度彫ったら元には戻せません。進めるだけではなく途中何度も同じものを刷るのもとても大事なんです。」その声に参加者は進むだけでなく、たくさんの枚数を刷っておく大切さに気付きます。制作していると熱中して気付かなかったことを高松さんが優しく教えてくださいます。
「刷っただけでは実は完成ではないのです」と高松さん。「台紙に貼って、タイトルやサイン、エディションを書き込んで完成になります」というお話の後に実際に台紙に作品を貼り付ける貼りこみという作業を実演していただきました。刷った版画を版木の形にくり抜いて、台紙にのりで貼り付けていきます。「額に入れる前の段階を想像していただけると分かりやすいです」とお話しながら、高松さんは手際よく貼り付けていきます。貼りこみの後にタイトルやエディションのお話しを伺いました。版画はひとつの版木から何枚も刷れるので、何枚刷ったうちの何枚目ということをエディションという形で記載します。これで作品の完成です。
みなさんの作品を囲んで、作品や制作についての感想を発表します。タイトルやモチーフに込めた想いを話してもらいます。木口木版はみなさん初めてで、苦労した点もありましたがとても充実した時間を過ごせたようでした。
作品は高松さんが張り込みを行い参加者に返却します。
どのような仕上がりになるのでしょうか、お楽しみに!