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ATLIA STAFF BLOG
やさしい鑑賞講座[根付と粋の文化/掌中に宇宙を創造する]を開催しました
 去る11月16日(日)、秋の企画展〈川口の匠vol.4麗のとき〉関連として、やさしい鑑賞講座[根付と粋の文化/掌中に宇宙を創造する]を開催しました。
 講師は本展出品者のひとり、現代根付師の齋藤美洲さん。江戸時代から伝わる根付の伝統技術を受け継ぎながら新しい表現に精力的に取り組み、その精緻な技術と動的な表現により、世界的にも「BISHU」の名で知られています。
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 やさしい鑑賞講座の導入として、まずは「根付とは何か」という基本的なところからお話しくださいました。根付の起源は燧石(ひうちいし)など旅の必需品を入れて腰に提げる袋、いわゆる「提げ物(さげもの)」と深く関わっているそうです。着物の帯に提げ物を固定して便利に持ち運ぶための留め具として生み出され、江戸時代に武家は印籠、庶民は煙草入れなどを提げる習慣ができてからは、その意匠に合わせて凝った根付がつくられるようになったのだとか。当時の人々のお洒落と身だしなみとともに発展していったのですね。

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 その粋の文化を、古典根付の名品に見ることができます。故事を題材にした根付からは当時の日本人の教養の高さが伺え、使い込まれて表面が磨り減った獅子にはそれを計算に入れての着色と彫りが施されており、ものへの愛着や変化を美しさと捉える感性が表れています。
 歌舞伎などの流行りものをドラマティックに表現した根付もあれば、省略の美を感じさせる、非常にシンプルな形をもつ動物の根付も。美洲さんイチ押しは懐玉斎(かいぎょくさい)という名工が手がけた兎の根付で、ほぼ楕円形の塊の中に絶妙に抑えた動きがあり、その量感と柔らかな曲面から生き物の温もりや息づかいまでもが感じられるようです。

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 人々の暮らしに寄り添い、時代の流れや価値観を映し出す根付。実際にはどのように愛用されたのでしょうか。美洲さんに多くの作品を依頼し収集している愛好家のひとりにスポットを当て、使い方の妙を見てみます。根付は、提げ物とその口を締める緒締(おじめ)との三つを組み合わせて使うのが基本で、郷土の詩を題材にイメージを膨らませた組み合わせ、仕事の赴任先で手に入れた素材をもとに、依頼者自身の思い出を表した組み合わせなどが紹介されました。
 依頼者から出されたお題を美洲さんが豊かに肉付けして根付に表し、更にそれに見合った組み合わせを依頼者が発想して揃える。根付の制作依頼を通じて作り手と問答し、人生の欠片のように集めたコレクションを通じて愛好家同士の親交を深めているのだとか。根付そのものだけでなく、楽しみ方も奥が深いですね。

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 休憩を挟んだあとは、展示室にもある美洲さんの作品を紹介。1971年に始まり根付界のエポックとなった「現代根付運動」や、制作の重要なテーマとなっている「温故知新」「制約の中の自由」「掌中に宇宙を創造する」について解説していただきました。身に着けて愛用する根付本来の価値と美しさを捉えながら、いかに自由な表現を実現し得るか。小さな根付の中に大きな世界を包括していく美洲さんの挑戦は続きます。

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 最後はお待ちかね、美洲さんの作品を手に取り「掌中の宇宙」を感じ取る時間です。この日のために特別に用意された作品の前に集まる参加者たち。まるで宝石を扱うかのように慎重な手つきでためつすがめつ、全方位に行き届いた匠の技と表現に感嘆の溜め息がもれます。別の作品へと移動してからお気に入りの作品の前に戻ってくる参加者も。作品の感想や質問を交えて作者と歓談する有意義な時間となりました。

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 展覧会の会期最終日だったこの日。講座を通じて、展示だけでは紹介し得なかった根付の歴史文化とそれに携わる美洲さんの見識の深さ、掌に気持ちよく馴染む作品の本質的な美しさを実感していただくことができました。この体験をもって、閉館間際まで熱心に展示をご覧になる参加者多数。これからも地域に息づくものづくりの文化とその魅力を様々な手法で伝えていきたいと思います。


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秋の企画展〈川口の匠vol.4麗のとき〉会期は終了しましたが、館内およびホームページにて図録を販売中。約半年間の取材をもとに、匠たちの技や精神、ものづくりとともに刻まれる豊かな時間について詳しく紹介しています。ぜひご覧ください。
by atlia | 2014-11-21 15:25 | 鑑賞講座・実技講座