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ATLIA STAFF BLOG
秋の企画展関連アートウォッチングを実施しました!
10月19日(日)、開催中の企画展〈川口の匠vol.4 麗のとき〉に関連したアートウォッチングを実施しました。作品を体験し、アートを身近に楽しむ鑑賞プログラム。今回は匠が制作した筆や根付を手に取り、その感触を味わいながら感想や疑問などを話し合います。主に関東圏の美術施設で活躍している「視覚障害者とつくる美術館賞ワークショップ」のみなさんと協働して企画し、市内外から8名の参加者が集まりました。

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話し合うポイントは主に2つ。「見えること(作品の物理的な特徴)」と「見えないこと(作品から受けた印象やそこから考えたことなど)」を言葉にして鑑賞を深めていきます。
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まずは関芳次のコーナーで筆の鑑賞。日本画や水墨画を描くためのバリエーション豊かな筆が展示されています。中でも目を引くのは、いくつもの細い筆を連結させてつくられた連筆(れんぴつ)。
「どの方向に、どのように連なっていますか?」
「1本はどのくらいの太さ?長さも全部同じですか?」
視覚障害者から投げかけられる疑問は晴眼者の視点を具体的にし、作品を細部までよく見る手がかりとなります。
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1本ずつ異なる筆のつくりに注目するうち素材にも興味がわいてきました。ケースに並んだ何種類かの毛を比べてみると、タヌキの毛はふんわりと柔らかそうでシカの一種であるアカサンバは毛艶が無く硬い感じ。ウマの尻尾は毛の1本1本が太く、とりわけ丈夫そうです。
「そういえば、ウマは尻尾を鞭のようにして虫を払うよね」
と参加者の一人が思いぽろっと発言したことにも、一同納得!
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実際の触り心地はどうでしょうか。特別に用意された3種類の筆を、いよいよ手に取って確かめてみます。穂先に指で触れた瞬間、感嘆の声をあげる参加者たち。
「想像以上に柔らかい!」
「こっちはガサガサ。これでは絵の具を含まないし先がまとまらないのでは?」
と、感じたまま、思ったままを実況中継するかのように伝え合います。形も材質も異なる3種類の筆はいずれもぼかしの表現に使われますが、広範囲を柔らかくぼかす用途や荒く筆致を残しながら狭い範囲をぼかす用途などでつくり分けられています。筆のつくりの多様さとそこから生まれる表現との関係を実感することができました。
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次は齋藤美洲のコーナーで根付の鑑賞。写実的だけれどどこかユーモラスな動物たちのポーズや表情などに会話が弾みました。
「これは何の動物?」
「タヌキだと思うけれど腹が極端に丸く膨れているね。」
「しかもその部分だけツヤツヤしてる。これも実用に適った形の特徴なのでは?」
と、感触や使い方に思いを巡らす様子は目で作品を触っているかのよう。
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手に取る期待がより高まったところで2種類の根付が登場。梱包が解かれるなり参加者から歓声が上がります。
「すごいツルツル!」
「饅頭に似てるけどボコボコしてる。動物が丸まった形?」
「丸まるというよりうずくまった感じ。」
「回してみたら猫の顔が!ほらここに耳があって…」
と、形を探る視覚障害者の手に晴眼者の手が添えられる場面もあり、視点と感覚を分け合いながら作品をまさに「一緒に見る」形となりました。石や動物の牙に思えた素材が木の実だと知り再び驚きの声が上がります。
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巾着とその紐を締める緒締(おじめ)とセットにして実際に身に着けてみました。着物の帯の代わりにベルトに根付を通し、収まりのよい着け方を自然と探り出す参加者たち。ベルトの上にウマの足が乗ると跳走する姿がより生き生きと見えます。


最後にプログラムの感想を1人ずつ発表しました。
「表面的にしか見ることのできなかった作品の印象を、触った実感から確かめることができて嬉しかった。」
「用途と機能美を自分たちで発見することができ、根付とは何かをより理解できた。」
「初対面同士で楽しく作品を鑑賞し、貴重な交流の機会を得られた。」
と、参加者たちの言葉には活動の充実感が表れていました。自分の見たものをどう言葉で表現すればよいのか、初めは探り探りでしたが、作品を触った途端に緊張がほぐれ、賑やかに会話しだす様子が印象的でした。

日本人にとって馴染みの深いものでありながら、普段は展示台やアクリルに隔てられている匠の作品たち。優れた実用性を備えた作品の本質に皆で触れることができたのではないでしょうか。

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by atlia | 2014-10-22 11:25 | ワークショップ