話し合うポイントは主に2つ。「見えること(作品の物理的な特徴)」と「見えないこと(作品から受けた印象やそこから考えたことなど)」を言葉にして鑑賞を深めていきます。
「どの方向に、どのように連なっていますか?」
「1本はどのくらいの太さ?長さも全部同じですか?」
視覚障害者から投げかけられる疑問は晴眼者の視点を具体的にし、作品を細部までよく見る手がかりとなります。
「そういえば、ウマは尻尾を鞭のようにして虫を払うよね」
と参加者の一人が思いぽろっと発言したことにも、一同納得!
「想像以上に柔らかい!」
「こっちはガサガサ。これでは絵の具を含まないし先がまとまらないのでは?」
と、感じたまま、思ったままを実況中継するかのように伝え合います。形も材質も異なる3種類の筆はいずれもぼかしの表現に使われますが、広範囲を柔らかくぼかす用途や荒く筆致を残しながら狭い範囲をぼかす用途などでつくり分けられています。筆のつくりの多様さとそこから生まれる表現との関係を実感することができました。
「これは何の動物?」
「タヌキだと思うけれど腹が極端に丸く膨れているね。」
「しかもその部分だけツヤツヤしてる。これも実用に適った形の特徴なのでは?」
と、感触や使い方に思いを巡らす様子は目で作品を触っているかのよう。
「すごいツルツル!」
「饅頭に似てるけどボコボコしてる。動物が丸まった形?」
「丸まるというよりうずくまった感じ。」
「回してみたら猫の顔が!ほらここに耳があって…」
と、形を探る視覚障害者の手に晴眼者の手が添えられる場面もあり、視点と感覚を分け合いながら作品をまさに「一緒に見る」形となりました。石や動物の牙に思えた素材が木の実だと知り再び驚きの声が上がります。
最後にプログラムの感想を1人ずつ発表しました。
「表面的にしか見ることのできなかった作品の印象を、触った実感から確かめることができて嬉しかった。」
「用途と機能美を自分たちで発見することができ、根付とは何かをより理解できた。」
「初対面同士で楽しく作品を鑑賞し、貴重な交流の機会を得られた。」
と、参加者たちの言葉には活動の充実感が表れていました。自分の見たものをどう言葉で表現すればよいのか、初めは探り探りでしたが、作品を触った途端に緊張がほぐれ、賑やかに会話しだす様子が印象的でした。
日本人にとって馴染みの深いものでありながら、普段は展示台やアクリルに隔てられている匠の作品たち。優れた実用性を備えた作品の本質に皆で触れることができたのではないでしょうか。